『アンドリュー・ワイエス展 オルソン・ハウスの物語』/宮城県美術館

丸沼芸術の森所蔵の作品群。水彩による習作が多数展示されていたが、それらはデッサンを引き立たせるものではなく、対象を色彩で素早く大まかに捉えることを目的としているものであった。荒目の水彩画紙に染みや滲みの効果を用いて建物(オルソン・ハウス)の外観や内部(室内)が描かれているのだが、特徴的なのは建築物に付属する水平と垂直が画面を構成する要素となっていること。特に重要なのはドア枠と窓の格子の使い方であるのだが、『オルソンの家』に見られる納屋の柱を用いた垂直性や、『海からの風(習作)』や『さらされた場所(習作)』などの作品に見られる窓の格子、つまりグリットの使い方などを見ると、案外、モダニズム的な要素に規定されていた作家であったのかも知れない。

水彩による習作を見ると、ワイエスがデッサンと同じぐらい、絵画を構成する要素として、「染み」や「滲み」を重要視していたことが分かる。「染み」とは、「見る」ことだけを前提としているものである。そこには読まれるべきテクストが存在しない。一般的にワイエスアメリカ抽象表現主義の対極にいたと思われる画家であるが、「染み」や「滲み」には、抽象表現主義がヨーロッパを否定した方法と共通する部分もある。抽象表現主義においては「意味」ではなく、「行動」が選択されることで、アメリカ的価値が体現、確保されるが、ワイエスにおいては、意味(あるいは物語)は、具象という形で確保され続ける。しかし、そこにはヨーロッパ的な「色彩=光」といった考えはない。このことはワイエスの「青」の使い方に端的に表されている。おそらくワイエスは青の有効性を認識していただろうが、光の探求というヨーロッパ的な要請が自身にないため、ワイエスの絵画では光の探求は行なわれない。