『没後100年 菱田春草展』長野県信濃美術館

線描を排しているからなのか、日本画にしては近視的な作品になっておらず、遠くから離れても見られる絵画となっているので好感は持てる。気がついたのは、当初は春や秋といった季節が主題に選ばれ描かれていたのが、徐々に、夕刻や朝日あるいは、月夜といった刻限が描かれるようになっていくこと。夕日や月明かりが好まれて描かれているので、ロマン主義を思わせる神秘的な作品が何点かあったのだが、前近代的な世界であれば、夕刻や月夜に見られる神秘性というのは、怪異な世界に通じる神秘性であるのだが、近代絵画として描かれる春草の絵画には、グロテスクな闇に通じる神秘性は見られない。春草の絵画が前近代的な闇と無縁ということは、夕日のオレンジ色に象徴的に表されていたと思うのだが、朦朧体について語る時によく指摘される外光派との比較からいうと、光源と色彩の幅が極端に狭いと言わざるを得ない。