『モダン・アート、アメリカン』展/(2)

エドワード・ホッパー『都会に近づく』

不思議な作品。画面の上半分だけを見たら何の取り柄もない都会の風景が描かれているのだけれど、周到に視線の逃げ場が消されているので、視線は画面下半分に描かれているレールの線に導かれて、地下鉄の入り口に向かうことしか出来ない。しかしここではレールの先にあるはずの消失点がブラックボックス化されてしまっているので、本来なら線遠近法に導かれて消失点に向かうはずの視線が行き場を失い、仄暗い入り口の隣にある、画面中央の汚れた白い壁を眺めることしか出来ない。なんとも捉えどころ無い作品である。

ホッパーの絵画は、一見すると平坦な感じがするのだが、遠近法が手放されていないので、独特の絵画空間が確保されている。特に重要なのは建築物の内部空間の使い方であるのだが、絵具のマチエールで平面性が強調されるのではなく、薄塗りでイリュージョン性の確保が目指されているところが傑出している。



視線の方向。地下鉄の入り口に向かうしかないのだが、ブラックボックス化されているので、隣にある白い壁を眺めることしか出来ない。