「みちのく」(道の奥)というのは、中央(政治・文化)からの遠さを意味するのだけれど、この遠さが、逆に東北をこれまでロマン化させてきた。古来より東北が、異国趣味的に歌枕の地とされたのは、中央からの距離(遠さ)のためである(たとえば芭蕉奥の細道』)。同じように今日、被災地を「廃墟」として語ることを可能としているのも、距離のローマン化によるものである。被災地から遠く離れていればいるほど、それは「廃墟」として語りやすい。しかし被災地で眼にするものは、「廃墟」(ロマン)として語れるものではない。そこにあるのは自然に拒絶された人間の孤独さと、悲しみだけである。