パレルモ 12月24日(金)

ホテルで朝食。バスで中央駅に向かい、明日以降の切符を購入。その後、ピンク色のドームで有名なサン・カタルド教会の隣にあるカマルトラアーナ教会に移動。教会は現在改修中のため、一部しか見学出来ないのだが改修されていたのが、主に16世紀に改築された外観と17世紀に増設されたチャペルの部分であったので、もしかしたらギリシャ十字式で創建された当時の雰囲気を味わえたのかも知れない。教会内のモザイク画は図像的に厳格で、ビザンティン性格が強いものが多いと感じられたが、思いのほか人間的な表現も見られた。中央円蓋のパントクラトールが、キリストの胸像でなく、坐像であったのが印象的。

プレトリア広場にあるルネッサンス様式の噴水を覗いたあと、歩いてシチリア州立美術館へ移動。美術館は改修が終わったばかりのようで、外観も内装も綺麗で作品も大半が修復されてベストな状態で展示されている。特にルネッサンス期の作品が充実していたのだが、新たな展示スペースとして改修されて、17〜18世紀の作品が展示されていた、18世紀に増設された別棟にはあまり見るべき作品はなかった。印象に残ったのは、入口近くに展示されていた15世紀に描かれた『死の勝利』。とても大きなフレスコ画なのだが、写真図版で見るよりも、ずっと良い作品で、思いのほか幾何学的な画面構成がなされている。

それと忘れてはならないのは、アントネッロ・ダ・メッシーナの『受胎告知のマリア』である。これも写真図版では、何処が良いのか、全く分からない作品であったのだが、実際の作品を見ると、見事なぐらい人間の顔を正面から描くことに成功している。特にカラヴァッジョを彷彿させるようなライティングで描かれた鼻の凹凸の表現は完璧である。驚くのは正面性が強調されて描かれている顔と手が、漆喰の闇を背景とした青いベールを被る人物(マリア)の、唯一露出している部分として描かれていることである。この布という内部の存在を暗示するものの間から、真正面を向いた人物の顔と、正面に差し出された手を描くという試みには、漆喰の闇という不可視な領域、布という暗示的な領域、そして明瞭に描かれた顔と手という可視的な領域を描き分けるという作家の野心があったと思われるのだが、それらは見事に成功しており、作品に優れた宗教性を与えている。

マリーナ広場を歩いていると、突然警官が国際マリオネット博物館の入口を教えてくれた。前回、誰に聞いても分からなかった場所なのでちょっとだけ覗いてみる。ヴィッチリア市場近くのトラットリアで昼食。貝のスープが美味しい。夜、ホテルの近くにあるパペット劇場で人形劇を鑑賞。内容は「騎士道物語」で、上演時間は約一時間ほど。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』に出てくるトト少年のような人形劇大好きな少年が、大人に混じって一生懸命劇の演出の手伝いをしている姿は微笑ましかったが、残念ながら人形劇自体は大人の鑑賞に耐えられるものではなかった。一番の問題は顔に表情というものが一切なく、感情表現を全て効果音に頼っている事だと思うのだけれど、日本のようにたとえ子供向けのものであっても、大人が見られるものに作り上げるという発想がないのかも知れない。