ここ数年、イタリア(地中海的世界)に魅了されているのだけれど、それでも「パリの孤独」という言葉には無視出来ない何かがある。
例えば辻邦生は、西欧の偉大さを「人間を原型化し、普遍化、本質化して、時間空間をこえた真実として把握してゆくという思考」(『モンマルトル日記』)にあると語っているのだけれど、「ヒューマニズム」或は「人間性」という、とかく日本では成立し得ないものと思われがちなこの人間を主体とした「観念」を成立させる「孤独」さ、妥協を許さない絶対的な「孤独」さがパリという街にはある。それは「日本的」という言葉で解釈される「美」の分析方法論などではなく、「美」、そのものを問うことを強いる本質論であるのだが、辻邦生森有正が経験した「パリの孤独」というものが、まだパリという街に失われずにあることを願う。