アグリジェント 12月26日(日)

曇りのち晴れ。パレルモより寒い。朝から体調不良。午前中一杯部屋で休むことにする。

午後、歩いて「神殿の谷」へ向かう。冬とは思えない青空。まず始めに八本のドーリア式円柱が立ち並んでいるヘラクレス神殿が見える。柱の量塊に圧倒される。歩き進むとコンコルディア神殿、そしてその先にユーノー神殿が見えて来るのだが、遠くから神殿を眺めると、実は「柱」よりも「梁」の水平性が強調されていることが分かる。もちろんギリシャ建築の主役は「柱」である。しかしこの柱の役割というのは、垂直に天に向かっていく事にあるのではなく、梁を支える事にあると考えるべきである。

おそらくこの水平性は神殿の背後に控える地中海に呼応したものだと思われるのだが、この横への広がりという特徴は、垂直性が強調されるキリスト教建築には見られないものである。両者の特徴の違いというのは、両者の思想が目指す方向性の違いによるものであるのだが、ギリシャ建築に見られる柱と梁による架構構造というものは、本来木を素材とした建築に適応されるべき方法であるので、石を素材として用いている時点で、そこには建築強度に深刻な問題があったといえる。
つまり必ずしもカルタゴによって破壊されたから、今日の姿があると言う訳ではないのではないか、と言う事なのだが、そうした問題があるとしても、比較的破損が少ないコンコルディア神殿を見ても分かるように、外観の調和をなによりも優先とするギリシャ建築には、他の建築物には見られない優雅さがある。それは建築の外観よりも内部空間を重要視し、そこを聖域として独自の精神世界を形成していったキリスト教建築とは違う、非常に肉体的な表現である。

体調が優れないので、ゼウス神殿の人柱像テラモーネ(レプリカ)を見たあと、ホテルに戻って休養。